インドネシア政府がエネルギー政策の見通しの甘さを露呈し、国内の石炭産業界からの突き上げに加えて日本やフィリピン、韓国、シンガポールなど石炭輸入国からの不満を受ける事態になった。
これは予測から石炭の国内需要に不足が生じて大規模な停電が起きる可能性があるというもので、不足する国内需要を賄うために石炭の全面的輸出禁止と石炭産業への「国内供給義務(DMO)」の履行という措置を1月1日にジョコ・ウィドド大統領が発表したことに始まる混乱である。
この発表は国内の石炭産業関係者への事前の根回しも承諾もないままに発表されたようで、石炭産地の東カリマンタン州バリクパパン沖には石炭を満載して輸出国に向かう運搬船が37隻も出航を許されず立ち往生した。
国内業者からの反発に加えて、石炭輸入国である日本なども禁輸解除に動いた。日本は在ジャカルタ大使館やジャカルタ日本人会(JJC)を通じて「日本が輸入している高カロリーの石炭はインドネシアの国内需要とは別物なので速やかに輸出を再開してほしい」と申し入れた。折からインドネシア訪問中の萩生田光一経産相もインドネシア側に直接会談で要望を伝えたのだった。同様な申し入れはシンガポール、韓国、フィリピンなどからも寄せられ、国内外からの予想外ともいえる厳しい姿勢への対応を政府は迫られる事態に陥った。
こうした事態にインドネシアは13日に段階的な禁輸解除の方針を示し、手始めに日本、中国など10カ国に向かうバリクパパン沖に足止めされていた石炭運搬船の出航を認めた。国営電力会社の石炭在庫量が12日の時点で安全水準を確保することができたことが運搬船の禁輸解除の理由であると説明した。
この発表を行ったのがジョコ・ウィドド大統領ではなくルフット・パンジャイタン調整相(海事・投資)だったことに、現在のジョコ・ウィドド政権内部の権力構造変化が見え隠れする、とみるのは深読みしすぎだろうか。
禁輸の1カ月という期限は前倒しに見直しされ、大規模停電の懸念は12日に安全水準の石炭が確保され払拭されたという。一体1日のジョコ・ウィドド大統領の意気込んだ禁輸発表はなんだったのだろうか。
そのジョコ・ウィドド大統領は13日、ロンボク島で開通した空港とマンダリカ国際サーキットを結ぶ道路をバイクに乗って走り、その姿がメディアで大きく報じられていた。
月刊誌やネット版ニューズウィーク、JBPress、現代ビジネス、東洋経済オンライン、Japan in depth などにインドネシアや東南アジア情勢を執筆。ジャカルタ在住。