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首都移転にまつわる狂騒曲 大事なこと置き去りの現実

インドネシア国会が1月18日に首都移転に関する法案を可決成立させたことで、首都移転の現実性が高まった、と内外のマスコミが一斉に報じた。だが、一部のマスコミはそうした「喜色満面」の報道とは一線を画し、首都移転計画が投げかける問題点を指摘、国民に現実を直視するよう呼びかけている。

このところインドネシアは新首都が「ヌサンタラ(群島)」という名前になり、大統領官邸や都市構造などのグランド・デザインのイラストなどを次々と公表し、首都移転ムードの高揚に専心し、その様は狂騒曲のようだ。

新首都はジャカルタをはるかに1200キロ離れたカリマンタン島東カリマンタン州の森林地帯に建設される予定で、早ければ2024年から移転が始まり、順次首都機能を移転し最終的には独立100年となる2045年の移転完了を目指している。

そうした「お祭りムード」の中で、首都圏建設に関わる土地の高騰、当該地域の地方自治体首長の汚職疑惑なども報道されていることも忘れてはならない。そうしたことにも比して忘れてはならないのが、首都建設開発に伴う森林破壊などの自然環境に与える深刻な影響、そして膨大な額に上る巨額の開発資金の問題である。

首都移転予定地は人間に最も近い類人猿とされ、絶滅の危機に瀕しているオラウータンの生息地でもあるクタイ国立公園に近い。こうした地域の森林を伐採しておいて環境森林省を含む首都を建設することに内外に対する説得力があるのだろうか。

インドネシアは2021年11月に英グラスゴーで開催された国連の環境会議COP26会議で2030年までの森林破壊をゼロとする共同声明に署名した。しかしその直後にインドネシアは環境相が「不適切で不公平でありできない約束だ」と反論した。この反論が森林破壊ゼロするという国際目標にインドネシアは与しない免罪符になろうとしている。

また開発に伴う財源に関しては、試算で466兆ルピア(約3兆7000億円)が少なくとも必要とされているが、財務省では国家予算だけだは賄えず官民、内外の投資に頼らざるを得ないと不安を抱えているのが現実だ。

繰り返すが、首都移転を唱えているジョコウィドド大統領は2024年までの任期となり、その後は次期大統領の手腕に委ねられる。首都移転は大統領選での論点となるだろうが、計画邁進か一部移転で終わるか計画断念か次期大統領にとっては重要な「踏み絵」となる。

執筆:大塚 智彦
1957年生、毎日新聞ジャカルタ支局長、産経新聞シンガポール支局長などを経て2016年からフリーに。
月刊誌やネット版ニューズウィーク、JBPress、現代ビジネス、東洋経済オンライン、Japan in depth などにインドネシアや東南アジア情勢を執筆。ジャカルタ在住。
※本コラムは筆者の個人的見解を示すものであり、PT KiuPlat Media社の公式見解を反映しているものではありません。