東南アジア諸国連合(ASEAN)が2局分解の様相をみせてきた。原因は実質的内戦状態にあるメンバー国ミャンマーを巡る対応で、加盟国間の「温度差」が顕著になりつつあるのだ。
12月22日にタイ外務省主導で外相会議がバンコクで開催された。参加したのはタイ、ラオス、カンボジア、ベトナムとミャンマー5カ国の外相、外相格だった。残るインドネシアを含む加盟国は招待を受けたが参加しなかったため「非公式外相会議」の形となった。
招待に応じなかったのは議長国でもないタイの呼び掛けであることに加えてミャンマーの軍事政権が任命した「外相」が参加することが主な理由だった。
ASEANは仲介交渉に頑なに応じないミャンマー軍政を一連の関連会議や首脳会議に招待せず「ミャンマー抜き」を最近は進めてきたが、今回のタイの動きはこれに反し、ASEANとしての足並みを乱すものだった。
実質的な軍政であるタイ、ミャンマーの最大の後ろ盾である中国に忖度するラオス、カンボジア、ベトナムがミャンマー軍政代表を交えて開いた今回の会議はASEANがミャンマーに足並みを揃えて「譲歩を迫る」対応から「軍政を交えた協議で出口を探る」融和方針への逆戻りとなる懸念が生じているのだ。
現在のASEANの議長国はインドネシアであり、ジョコ・ウィドド政権などは2021年4月にジャカルタで開いた緊急首脳会議でミャンマー軍政のミン・アウン・フライン国軍司令官も参加して合意した「5項目の合意」に履行を迫って来た。しかし5項目の「武力行使の即時停止」「全関係者とASEAN特使の面会」を軍政は拒否続け、仲介交渉は行き詰っているのは事実だ。
そこに風穴を開けてなんとか「交渉の前進を」とタイは企図したのだろうが、スタンドプレーは加盟国間の結束を乱す原因となる。
対ミャンマー強硬派のマレーシアは反軍政の民主組織「国民統一政府(NUG)」代表を招待して協議するべきだとしているが、温度差ゆえに集約できないでいる。
ASEAN特使となったルトノ・マルスディ外相によるミャンマー問題での事態打開に向けた指導力が問われることになるが、ミャンマー軍政との難しい交渉に加えて対立が鮮明になってきた加盟国間の結束を取り戻すという新たな使命にも直面し、その責務は重い。大統領選などにかまけている余裕はないのだ。
月刊誌やネット版ニューズウィーク、JBPress、現代ビジネス、東洋経済オンライン、Japan in depth などにインドネシアや東南アジア情勢を執筆。