インドネシア東部ニューギニア島にあるパプア州のルーカス・エネンベ州知事が1月10日に「汚職撲滅委員会(KPK)」に収賄容疑で逮捕され、ジャカルタに移送された。
2022年9月に同容疑で指名されながらも健康上の理由で聴取や拘束に抗ってきたことからKPKは現地に担当官を派遣して健康状態を確認した上で逮捕に踏み切り、ジャカルタでもガトット・スブロト陸軍病院で診察を受診させるなどしている。
パプア州などパプア地方の州知事、現地警察トップ、地方自治体の長などには現地のパプア人を登用する方針をインドネシア政府は取っている。独立を求める武装闘争が細々とだが依然と続くパプア地方だけに中央政府による上からの統治より現地人登用で少しでも人心を穏やかにさせたいとの意向が働いているからだ。
しかしこうして地方政府や警察機構の現地トップに対して中央政府や国家警察の思惑を徹底させるには「飴と鞭」が必要不可欠とされ、それが汚職体質を蔓延させる背景にあるとの指摘もある。
未だにインドネシア社会に根を張る「汚職・腐敗・親族主義(KKN)」の残滓がパプアでは「効果的な統治」の方策としてある意味利用されているようで、同様の方策はかつての東ティモールでもとられていた。つまり今回のルーカス州知事の収賄は、個人的な側面と共に構造的な要素も幾許か反映しているように思えてならない。
かつてパプア地方を訪れた際、使っていた運転手に誰もいないところで「正直な思いを聞きたい」と発言を促したところ「インドネシア人の傲慢、横暴は酷い。これから逃れるには独立しかない」と心情を吐露した。日頃は地方自治体の職員であるこの運転手はやむなく「面従腹背」を続けており、パプア人の多数も同じ思いだと付け加えた。
2019年8月にはスラバヤでインドネシア人警察官などから「ブタ」「サル」「イヌ」などとの差別的発言を受け、パプア人による暴動がパプア地方などで起きた。インドネシア人の潜在的意識の中ではパプア人への優越感、差別感がいまだに存在していることの反映だった。
ルーカス州知事は少なくとも総額で10億ルピアの賄賂を州内の道路改良、環境センターなどのインフラ整備に関連して受け取っていた。罪は罪だがそれを「パプア人だから」と「俗人化」させないことが肝要だろう。
月刊誌やネット版ニューズウィーク、JBPress、現代ビジネス、東洋経済オンライン、Japan in depth などにインドネシアや東南アジア情勢を執筆。