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世界最悪の大気汚染 ジャカルタ 政府は対症療法に終始、打つ手なし

ジャカルタの歩道を歩く市民のマスク姿が再び増えている。コロナの再来ではなく悪化する大気汚染から身を守る自己防衛の手段なのだ。スイスの機関がジャカルタを世界最悪の大気汚染都市に位置づけたと地元メディアが一斉に報じたのは8月9日だった。以降メディアの大気汚染に関する報道が連日溢れる状況になっている。

ジョコ・ウィドド大統領は「ジャカルタの大気汚染を解決するには首都移転しかない」とか「公務員は在宅ワークで仕事を」などと述べ、政府やジャカルタ特別州政府も「公務員は水曜日の車両やバイクでの通勤を禁止し、公共交通機関を利用するように」などの対策を訴えている。

いずれも対症療法に過ぎず、いまやタイのバンコクを抜いて東南アジア最悪とさえ言われる大渋滞で溢れる自動車やバイクの排気ガス、北部工業地帯などの火力発電所や工場から排出される排煙など大気汚染の元凶を削減するという根本的かつ有効な対策とは程遠いというのが現状だ。

だいたいなぜ「公務員対象なのか」「水曜日なのか」という疑問への合理的な説明もない。「在宅ワークは現場の生産性を低くする」「首都移転の理由の一つはジャカルタの大気汚染であることは事実だが、だからといって移転を待つのは本末転倒だ」などの不満が渦巻いている。

環境林業省はジャカルタ市内の複数地点での大気汚染度の観測を始めたというが、「報道される世界最悪の大気汚染は誤解を招く。市内中心部には高層ビルが林立しており、大気や風が吹き抜けずに滞留するという“ストリート・キャニオン現象”が起きているのだ」と弁解する始末。どの行政機関もこの大気汚染問題に正面から向き合おうとしていないという印象だ。

大気汚染は子供や高齢者を中心に呼吸器系感染症、喘息、咳、息切れなどの健康被害を引き起こす可能性も指摘されている。

ジョコ・ウィドド大統領以下の閣僚、国会議員は一度でもモナスからタムリン通りを歩いてみてはどうだろうか。そうすれば大気汚染の実情がわかるというものだが、建物から建物へと冷房の効いた車両で移動しているだけではマスク姿の市民の苦悩を理解することは難しいだろう。

公共交通機関を利用しても駅あるいはバス停から目的地までは歩かざるを得ない一般市民にとって息苦しい日々が続く。

執筆:大塚 智彦
1957年生、毎日新聞ジャカルタ支局長、産経新聞シンガポール支局長などを経て2016年からフリーに。
月刊誌やネット版ニューズウィーク、JBPress、現代ビジネス、東洋経済オンライン、Japan in depth などにインドネシアや東南アジア情勢を執筆。
※本コラムは筆者の個人的見解を示すものであり、PT KiuPlat Media社の公式見解を反映しているものではありません。