「良薬口に苦し」とは「自分のためになる他人からの忠告は、素直に受け入れがたいものである」という意味だが、元来はよく効く薬ほど苦くて飲みづらいというものだ。
インドネシアには天然由来の生薬を配合して生まれる伝統的な漢方「ジャムウ(JAMU)」がある。市場の一角や路面店などで見かけることが多いが、背負ったかごに大量の瓶を入れて行商する姿も見かける。その多くが女性であることから、親しみをこめて「ジャムウおばさん」と呼ばれる。
彼女らは客の症状やリクエストを聞き、その場で複数の生薬を調合して客にあったジャムウを作りあげる。彼女らが生み出すジャムウは強烈な味だが体に効いている感じがする逸品だ。そのレシピは母から娘へ、代々一子相伝のような形で受け継がれてきたものも多く、独自のジャムウを生み出すために日々試行錯誤を重ねているという。
そんなジャムウだが腹痛、高血圧、尿道結石といった体の不調を治すものから、肌質改善やダイエットなど美容効果のあるもの、長寿や感染症予防といった効果がうたわれているものまである。免疫力向上のために、コロナ禍でジョコウィ大統領が1日3回ジャムウを飲んで来賓にも勧めていたというのは有名な話だ。
材料となる生薬は、ショウガやウコン、ユーカリといったなじみのあるものから、タマリンドや蜂の子、山羊の胆汁、タツノオトシゴの干物などといった尻込みしてしまうようなものまで多岐にわたる。最近はその人気も相まって工場生産のジャムウも増え、粉末やカプセル錠剤などのタイプも増えてきた。
日本人に最もなじみ深いのは「トラック・アンギン」ではないだろうか。薬局やスーパー、コンビニなどにはたいてい置いてある手のひら大の黄色いパッケージと言えば、ピンと来る人も多いだろう。アンギン(風邪)をトラック(断つ)という文字通り風邪に効くジャムウだが、インドネシア人は少し寝不足だったり、疲れ気味だったりするとすぐにこれを飲む万能薬扱いだ。
今ではキャンディタイプも登場し、日本でも買うことができるので、ジャムウに興味のある人はまず「トラック・アンギン」から始めてみることをお勧めする。クセのある味で好みは分かれるが、ジャムウの中では飲みやすい部類に入る。「トラック・アンギン」にハマったら、その先にもっと苦くて強烈なジャムウの奥深い世界が待っている。