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インドネシアにある助け合いの文化 「アリサン」がつなぐ絆とは

インドネシアの文化のひとつに「Arisan(アリサン)」と呼ばれるものがある。ある種のコミュニティーのようなもので、顔ぶれは学生時代の同級生同士や、会社の同僚、近所の人などさまざまだが、女性グループが多い傾向にある。さてこのアリサンは何なのかというと、メンバーそれぞれが一定額を出し合い、それを1人が受け取るというシステムである。

しかし、射幸性や勝ち負けといった要素は介在せず、利益や損失が生まれることはない。例えば10人でアリサンを結成したとする。月に一度10人が一堂に会し、1人10万ルピアずつ出し合うとする。そうして集まった100万ルピアを10人の中からくじ引きなどで選ばれた1人が手にする。手にした人は、ある意味臨時収入を得たような形になる。しかし、残り9回の集まりはくじ引きには参加せずに毎回10万ルピアを拠出するだけとなる。くじ引きは当たっていない人だけが参加でき、結果10回終わるときには10人全員が損得なしで終わることとなる。

では、何のためにやっているのか。ひとつは「相互扶助の精神」である。イスラム教の教えに影響を受け、インドネシアでは相互扶助の精神が強く根付いている。どうしても今月まとまったお金が要る。どうしても今月買いたいものがある。そんなケースは名乗り出れば、くじ引きなしでお金を手にできる。利子ゼロの前借り制度のようなものだ。

そしてもうひとつは、メンバー同士で定期的に親睦を図り、絆を深める場となるからだ。ドレスの色をそろえて高級レストランに集まる女子会、料理を持ちより一軒家で話を咲かせる主婦たち、SNSに溢れるそんな写真の数々がアリサンの一場面であるということは往々にしてある。

遠い昔、会社の同僚とのアリサンに参加したことがある。十数名はいただろうか。1年以上にもわたるアリサンで、途中で何人か転職したり、家庭に入るため退職していった。しかし、そんなメンバーも集まりには毎回顔を出し、近況報告に花が咲いたものだった。お金という目に見えるものよりも根底でしっかりとした信頼関係があって成り立っている会なのだと実感したのを覚えている。

宗教に無関心な日本人には、特に9.11以降「イスラム教=過激で危険」といったイメージがついてしまっているように感じるが、当地に住むとこういった相互扶助の精神を感じるシーンによく会遇する。何事もある断片だけで判断せずに包括的な視点が重要であるとあらためて肝に銘じたい。

執筆:大塚 智彦
1957年生、毎日新聞ジャカルタ支局長、産経新聞シンガポール支局長などを経て2016年からフリーに。
月刊誌やネット版ニューズウィーク、JBPress、現代ビジネス、東洋経済オンライン、Japan in depth などにインドネシアや東南アジア情勢を執筆。
※本コラムは筆者の個人的見解を示すものであり、PT KiuPlat Media社の公式見解を反映しているものではありません。