大統領選に立候補しているプラボウォ・スビアント国防相が公式の選挙運動期間を前に着々と体制を固めつつある。11月28日から始まる選挙キャンペーンに向けてプラボウォ陣営は選対本部の各部門の陣容を明らかにした。
そこに名前を連ねる各界の著名人、政治家、閣僚、国家警察や国軍の最高幹部経験者、イスラム教指導者などからプラボウォ国防相への支持層の多様さがうかがえる。まずはスハルト長期独裁政権が崩壊した1998年に国軍司令官だったウィラント氏、さらにウィドド・アジ・スチプト元国軍司令官、アグン・グムラール元陸軍特殊部隊司令官ら国軍の幹部、ハビブ・ルトゥフィ・ビン・アリ・ビン・ヤフヤ師、アセップ・サイフディン・ハリム師という著名なイスラム教指導者、バクリ財閥の総帥アブリザル・バクリ氏などである。さらにプラボウォ国防相の元妻でスハルト大統領の娘シティ・ヘディアティさんも陣営に加わり、スハルト一族やその根強い支持者層も取り込むことになった。こうしたメンバーがプラボウォ陣営に結集した理由はさまざまだろうが、共通しているのは「政権獲得」というプラボウォ国防相の長年の願望を実現させることにあるのは間違いないが、実はもう一つの理由がある。それが「反メガ」であり、最大与党「闘争民主党(PDIP)」の党首であるメガワティ・スカルノプトリ元大統領への反発だというのだ。それが磁石のように各界の人物を引き寄せ、プラボウォ国防相陣営に集まったという。
メガワティ党首と対立し、最後まで野党に留まった民主党のアグス・ハリムルティ・ユドヨノ党首は「反メガ」の急先鋒スシロ・バンバン・ユドヨノ元大統領の子息だ。さらにブディマン・スジャトミコ氏もプラボウォ陣営に加わった。同氏はスハルト大統領末期に民主化を掲げて反政府運動を激化、当局に逮捕投獄された政治犯だ。民主化実現後に釈放され、メガワティ党首のPDIPに参加していたが党運営に反発して離党。政治犯として逮捕する側だったプラボウォ陣営に「寝返った」のであり、彼もメガワティ党首への反発が根底にあるのは間違いない。
こうしたプラボウォ陣営の動きに対して有力対抗馬のガンジャル・プラノウォ中ジャワ州知事を擁立するPDIP側はプラボウォ候補のギブラン副大統領候補の出馬に疑問があるとか、プラボウォ候補の過去の人権問題をほじくり返すだけで、前哨戦では劣勢となっている。
執筆:大塚 智彦
月刊誌やネット版ニューズウィーク、JBPress、現代ビジネス、東洋経済オンライン、Japan in depth などにインドネシアや東南アジア情勢を執筆。