12月10日、ミャンマー少数民族ロヒンギャ400人余がボートでアチェに漂着した。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は、インドネシアに漂着したロヒンギャ難民が11月以降、1200人に達したと発表した。しかし、ロヒンギャ難民はインドネシアで上陸を拒否されたり、上陸しても地元住民の反対によりたらい回しされることが相次いでいる。ジョコ・ウィドド大統領は増加の一途を辿る漂着難民の裏には人身売買の懸念があると語った。また、13日には国境管理庁(BNPP)の長官でもあるチト・カルナビアン内務大臣が、大統領が国境問題に深刻な注意を払っていると発言した。
ミャンマーにあるラカイン州北部に住むロヒンギャ民族は、民族として危機に立たされている。ロヒンギャ民族はベンガル地方からきたイスラム教徒の少数民族であり、ミャンマーのラカイン州北部に住んでいた。しかし、ミャンマー政府は市民権を与えず、政府主導で組織的な社会的差別や人権侵害が横行していた。
ロヒンギャ民族がインドネシアを新天地に選ぶ要因の一つに、イスラム教徒の存在がある。ミャンマーでは宗教的迫害に苦しめられてきたロヒンギャ民族だからこそ、イスラム教徒が全人口の約87%を占めるインドネシアにもすがる思いで希望を見出しているのだ。
インドネシアに漂着する要因として、海流と風がある。昨年、バングラデシュ南部のコックスバザールを出発した小型船のエンジンが壊れ、1ヶ月間海を漂っていたが、風に流されアチェ・べザール地区ラドン村の海岸にたどり着いたことがあった。彼らのルートはベンガル湾とアンダマン海を通るルートが一般的だが、ベンガル湾の海流や風向き、サイクロンなどの複合的要因で、アチェへ漂着する可能性が高いと考えられている。
ロヒンギャ民族は、ラカイン州北部から国境を超えたコックスバザール難民キャンプで暮らしている。キャンプから抜け出しボートや小型船(木材)で新天地を目指す事も多い。ボート難民の逃避は長期漂流することも多く、死と隣り合わせだ。しかし、キャンプの暮らしにも限界がある。過密状態で食料が乏しい。彼らは将来の展望も見えない生活を脱したい思いで海を渡る。インドネシアは国連難民条約に署名していない。しかし、過去、沿岸に漂着した難民を受け入れた歴史がある。これからインドネシアが人道的な決断をできるかが注目である。
月刊誌やネット版ニューズウィーク、JBPress、現代ビジネス、東洋経済オンライン、Japan in depth などにインドネシアや東南アジア情勢を執筆。