東ヌサトゥンガラ州スンバ島の東部、ワインガプの道端で、野生の馬が歩く光景に目を奪われた。空港から数分も走らないうちに馬の群れが現れ、ドライバーのヘンドラは説明してくれた。「ワインガプの馬は、ペットというだけでなく、結婚のマハール(結納品)としてとても大切なんですよ」。
スンバ島では、男性が結婚する際、女性側に多くの馬を贈ることが伝統となっている。数十頭から多い時には数百頭にものぼり、その数は両家の話し合いで決まる。馬は一頭800万ルピアほどと高価であるため、マハールをそろえるのに時間がかかり、結婚式を先延ばしにするカップルも少なくない。しかし、ヘンドラはこれを「スンバ島では、愛を示すために必要な大きな犠牲の象徴だ」と語る。
一方で、女性側もこのマハールに応える品を用意する。宝石や伝統のスンバ織物がその代表であり、どれも家の誇りを示す重要な品々である。ワインガプで織物をつくるママ・レノルによれば、「特に西スンバでは、女性が望むだけの馬を男性側が用意しなければならない」とのこと。織物の量や美しさも、女性側の家の格を示すため、慎重に選ばれる。
こうした馬と織物のやり取りは、両家の歴史や誇り、そして新しい家族を迎える覚悟を示す儀式でもある。スンバ島には、野生の馬が語りかけるような、深く息づく結婚文化が今も受け継がれている。



















