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インドネシアの源泉徴収税
インドネシアにおいて所得税は主に源泉徴収方式が採用されています。給与所得に関する事業所(雇用主)による源泉徴収は日本などで広く使われているシステムですが、インドネシアではこれに加えて「特定の所得項目」について、支払側(サービスの提供を受けた側)が税金を源泉徴収する方式を取っています。
これらは「前払税金」とも言えるもので、確定申告の際に所得税から控除することができます。
税務当局が「納税意識の低い納 税義務者から前もって税金を徴収したい」という意向がうかがえる。しかし、納税者は付加価値税 (VAT)を含めた申告納税を毎月行わなければならず、この税務処理のために費やす時間や手間への負担は意外と大きなものとなっている。
源泉税の項目
インドネシアの経理担当者や会計事務所など帳簿や決算を扱う人々の間では、インドネシア所得税法の条文番号を使って各種 の源泉徴収税について呼び分けがなされます。
会社会計・税務上、頻出の主な源泉税税目は下記5種類で、その詳細と共に説明します。
PPH21 / 個人所得税の源泉徴収
- 給与、個人へのその他の支払いに対して行う源泉徴収。
- 雇用主は従業員に支給する給与から所得税分を源泉徴収し、税務当局に納める義務がある。
- 個人コンサルタントや、個人事業主、公証人や税理士、弁護士などの士業個人への報酬に対しても、源泉徴収を行う。
- 取引相手方によっては、源泉控除を拒む者もいることから契約時にグロスアップをおこなうか源泉控除を行うかは確認が必要です。
PPH22 / 輸入時の前払所得税の源泉徴収
- 製造会社や商社が材料・物品を輸入する際に輸入関税、付加価値税(11%)と一緒に通関時に納税する。
- PPh22の税率は輸入者のライセンス状況によって異なる。通常輸入業者ライセンス保持者は2.5%となり、非保持者は7.5%となる。
- 一部物品(小麦や大豆、製紙、セメントなど)においては、法令規則に基づき異なる税率が適用される場合もある。
PPH23 / 国内サービスに対する源泉税
- インドネシア国内で提供されるほとんどのサービスに対して課税される
- 支払側が「請求された金額の2%」 を源泉徴収し、サービスの提供者に代わって納税する
- 納税者番号(NPWP)を有しない者への支払いにかかる源泉税率は4%となる
- このPPH23には、15%の税率が課せられるものがある
PPH4–2 / 最終税金の源泉税
- ファイナル課税(源泉分離課税)の源泉税で土地/建物を売却したときの譲渡所得、銀行預金の利子所得など、税金が源泉徴収(天引き)されることで課税処理が完了し確定申告が不要なもの
主な源泉税率は、土地 / 建物の権利譲渡料が5%、土地・建物の賃貸料(家賃など)が10%、定期預金と普通預金の金利への税率は20%
PPH26 / 海外サービスに対する源泉税
- 非居住者への支払に対する源泉税に関する取り決め
- 配当や各種サービスに対する報酬、年金及び その他の定期的な支払い、さらに支店/恒久的施設(PE)の法人税引後の利益を支払う際一律20%を源泉徴収する。
- 日本などインドネシアとの間に租税条約があ る国に居住する受領者に対して報酬などを 支払う場合、源泉税率の減免がある。その場合、相手の個人や法人から居住証明書を受け取り、申告前にインドネシアの税務署に申請しておく必要がある
- インドネシア国外の会社(本社等)はインドネシアの会社(現地法人)の納税後、源泉徴収票をもって外税控除を適用できる場合がある。
付加価値税(VAT)
付加価値税(VAT)は、日本の消費税と同様のもので、最終消 費者が負担する間接税の一種です。インドネシアでの物品の販売、サービスの提供、輸入などについて課税されるものです。インドネシアのVAT税率は基本的に11%で統一されていますが、一部物品等には異なる税率となっています。日本の消費税と異なる点は、「非課税の物品や非課税のサービスがある」ということです。
VATが課税される事業者
VATを負担するのは最終消費者ですが、事業者 (企業)に徴収および納税の義務が課せられています。そのため 「年間総売上が48億ルピアを超える事業者」は、VAT被課税事業者登録(PKP)を行う必要があります。
PKP(Pengusaha kena pajak/ 付加価値税登録番号)を持っていると、仕入れで支払ったVATと 受領したVATを相殺できることか ら、仮に売上高が48億ルピアに 達してない企業でも申請しておいた方がよい。
VATの納税
PKPの取得事業者は、取引ごとに領収書に当たるタックス・インボイス(Faktur Pajak)をもらっておき、仕入れで支払ったVAT(インプット VAT)と客先から販売時に受領したVAT(アウトプットVAT)を相殺して納税額を決めます。
翌月末日までの月次計算で、アウトプットVATの方が多ければ納税、インプットVATの方が多ければを翌月繰り越し、会計税務期末の計算でなおインプットVATが多い場合には年度末の月次計算の際に還付請求を行う事が可能です。
なお、輸入関税として課されるVATや、海外サービス提供を受けた対価として支払うVAT(自己申告VAT)は、その都度国庫に納税するとともに、上記VATインアウトに含めることが可能です。
VATが免除される物品の例は次の通りです。
- 非課税物品の例
- 生活必需品(米、トウモロコシ、大豆など)
- レストランやホテル、ケータリングによりサービスされる飲食物
- 貨幣、有価証券、純金
- 原油、天然ガスなどの燃料や鉱物資源
- 非課税サービスの例
公共サービス、医療・福祉サービス、郵便切手を使用した配達 サービス、金融・保険サービス、公共輸送、国際航空輸送、教育事 業、宗教関連サービスなど
PKP登録をするメリット
PKP(Pengusaha kena pajak/付加価値税登録番号)登録を行い、PKP登録事業者となることで、仕入れで支払ったVATと売上で受領したVATを相殺する事が出来ます。会社税務処理の負担は大きくなるものの、税務上は登録をする方がメリットがある。
PB1について
レストランやカフェ、バーや娯楽施設においては、PB1という地方税が付加されます。地方税であることから、レストランにおける税率は州によって異なりますが、おおよそ10%前後となっています。その他、事業によっても税率は異なります。スパやディスコ、カラオケなどの娯楽はPB1が25%から35%の間で税率が設定されている場合があります。
レストランにおけるVAT
レストランで飲食したレシートの中には、VATと表記された税が徴収されている場合が多々ある。これは、レジ・POSの便宜上、VATと表記されているものの、実態は地方税のPB1が付加されています。
レストランでの+21%とサービスチャージの行方
インドネシアのレストランで飲食した場合、21%が料金に上乗せされます。この内訳は、サービスチャージとして10%をレストランがチャージした後、サービスチャージ込みの価格にPB1(:10%)が付加され、結果21%が飲食料金に上乗せされます。
サービスチャージはレストランが任意で最大10%の範囲でチャージされることが法令上許されており、徴収したサービスチャージは、法廷の割合で従業員への分配金・従業員への育成教育資金・機器損等の損失充当金に割り当てるものとして労働法令で規定されています。
PKP登録を行わない場合
PKP登録を行わないことを選択した事業者は、日本と異なり付加価値税を付加して請求することが出来ません。日本においては2023年以降インボイス制度の開始に伴い消費税の益税が廃止される予定ですが、インドネシアにおいては、登録業者のみが付加価値税を付加することが出来る制度です。
なお、PKP登録を行わない業者においても請求された付加価値税は最終消費者と同じく請求もとへ請求金額と共に支払う義務があります。