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インドネシアの税金制度|移転価格税制の運用

インドネシア税務当局は、移転価格税制による課税強化を目指し、2016年12月に新たなルールを打ち出しました。これにより、グローバル展開を行う企業の事務負担が大幅に増える格好となりました。

移転価格税制とは

法人税率は国や地域によって格差があります。この違いを利用し、税率が低い国にある子会社への販売価格を下げれば、親会社の収入が減るだけでなく、税負担も少なくなります。このようにして企業グループ全体では税負担を軽減させることができます。

しかし、税務当局が「グループ内取引の販売価格を不当に下げている」という判断を行なった場合、関連企業ではない第三者との取引価格をあるべき取引価格税額を算出します。移転価格税制は、このような海外のグループ内関連企業との間の取引を通じた所得の海外”移転”を防止するため、海外の関連企業との取引が通常の取引価格(独立企業間価格)で行われたものとみなして所得を計算し、課税する制度です。

一般的な「移転価格税制」とは
日系法人の海外系列会社などとの取引価格の“操作”に 対し、第三者との取引価格と照合して所得を計算し、これに基づいて課税する税制のこと。

インドネシア税務当局の動き

インドネシア税務当局は、移転価格税制による課税強化を行うため、2016年12月に「財務大臣規則(PMK−213)」という通達を発表しました。これにより、移転価格による当局からの追徴課税を逃れるためには、極めて事務負担の大きい書類作成を迫られる事態となっています。

以下のいずれかに該当する国内企業に対し、マスターファイルとローカルファイルの提出を求めています。

マスターファイルとローカルファイルの提出が求められるケース
  1. 関連当事者間取引がある企業で、前年の年商が500億ルピアを超える法人
  2. 関連当事者間での商品や製品(機械などの有形固定資産)の仕入れや売上高が年間200億ルピアを超える法人
  3. 関連当事者間での各種サービス、金利、その他の取引(無形資産や役務提供に関する取引、および関連当事者間の貸付に係る利息)が50億ルピアを超える法人
  4. インドネシアよりも税率が低い国に関連拠点を持ち、かつその現地法人との取引がある法人

→他国と比べ準備すべき書類が多いだけでなく、提出を要請される対象企業の範囲もかなり広範。

マスターファイルとローカルファイルについて

マスターファイルとは企業のグローバル活動全体が把握できる資料の事であり、ローカルファイルとは、現地法人の活動が把握できる資料のことを指します。

他国にある拠点との取引(関連当 事者間取引)の際の価格が不当 に安くない(独立企業間の取引価格と同等である)ことを説明するために用います。

また、2種のファイルを提出する際に併せて国別報告書 “CbCレポート”を求められることもあります。

CbCレポート
国別の所得、収益、納税額とある程度の経済活動に関する情報を国別に記載する。CbCとは「Country-by-Country」の略。

また、税務当局にファイル提出を要するケースとして、

  1. 当局からの問い合わせを受けた際、あるいは税務調査、税務裁判が起きた際。
  2. 異議申し立て、納税にかかる金利や罰金の減額もしくは免除の申請を行なった際

等が挙げられます。

それぞれのファイルおよび報告書は原則インドネシア語での提出となりますが、対象会社の記帳について英語での作成が認められている場合はインドネシア語訳を添付のうえ、英語でも可能です。

マスターファイル

マスターファイルに記載されるべき事項は以下の通りです。

  • 関連当事者(各国にある拠点)間の資本関係が読み取れる図、もしくは組織図
  • 事業活動の形態
  • ノウハウなど無形資産の保有状況
  • 財務活動の状況
  • 親会社が取りまとめる連結財務諸表
  • 関連当事者(各国拠点)の税務情報

ローカルファイル

ローカルファイルに記載されるべき事項は以下の通りです。

  • 会社及び関連当事者(各国にある拠点)の概要
  • 国外関連者間取引の概要(商流図など)
  • 機能分析(研究開発活動や製造活動販売活動で各関連者がどのような機能を果たすか)
  • リスク分析(在庫リスクや為替リスクなど、各関連者がどのようなリスクを負うか)
  • 各関連者の保有する無形資産(商標、製造ノウハウ、ブランドなど)
  • 独立企業間価格算定方法の選定

マスターファイルとローカルファイルの提出規定

上記ファイルの提出規定として、以下のものがあげられます。

  1. 提出は決算日から4ヶ月以内
  2. ファイルの税務当局への提出は不要。
    ただし、マスターファイルとローカルファイルの概要説明(PMK-213の附則Bにフォームがある)を税務申告書に添付する必要がある。

2022年現在、税務当局は法人税申 告書提出時(決算から4か月以内)にマスター・ローカルの両ファイルの提出を求めてくるケースが増えています。(従来は概要説明の添付のみで済んでいました)

概要説明には両ファイルの作成日付の記載が必要です。当局は「概要説明を提出できるタイミングには、両ファイルは完成しているはず」と考えており、前述のような対応を行っているようです。

税務当局にファイル提出を要するケース

税務当局にファイル提出を要するケースとして、以下の点が挙げられます。

  1. 当局からの問い合わせを受けた際、あるいは税務調査、税務裁判が起きた際。
  2. 異議申し立て、納税にかかる金利や罰金の減額もしくは免除の申請を行なった際

国別報告書(CbCレポート)の作成が求められるケース

インドネシア法人が連結売上11兆ルピア超(前事業年度)の連結グループの構成会社であることが前提とした上で、次のようなケースの場合、提出が求められます。

  1. 親会社の拠点がある国で、国別報告書の作成が不要となっている場合(改めて作成が必要)
  2. 親会社の拠点がある国がインドネシアと情報交換協定が締結されていない場合
  3. 親会社の拠点がある国とインドネシアとの情報交換協定はあるものの、親会社の国別報告書が得られない場合