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モトGPに熱狂する政府の思惑  観光振興と若者に夢とは言うが

最近のインドネシアの各種報道を見ると「2022モトGP」関連の記事が目立つ。モトGPはバイクのロードレース最高峰カテゴリーに位置づけられる世界選手権で、3月18日から20日にマンダリカ国際サーキットで開催される予定だ。マンダリカ国際サーキットはバリ島の東にある西ヌサテンガラ州ロンボク島にインドネシア政府の肝いりで新たに開発されたレース場で、バイク好きのジョコ・ウィドド大統領がオープニングの式典で自らバイクに乗って試走する姿が大々的に報道されるなど、念願のレース場でもある。

サンディアガ・ウノ観光創造経済相は現在2万4000部屋という現地ホテルのキャパシティーをモトGPで見込まれる10万人の訪問者に対応できるように整備するとしている。

さらにエリック・トヒル国営企業相は国際的なバイクレースの開催が「インドネシアの若者を中心としたバイクライダーを魅了すること」への期待を示し、違法なロードレースを辞めて「プロのバイクライダーという夢を目指す動機になること」を希望すると述べた。

さらに西ヌサテンガラ州観光長官ユスロン・ハディ氏は2月22日から13日に実施されたモトGPの前哨戦となるプレシーズンテストマッチのレースに参加したライダーや関係者が同州の観光促進に貢献してくれたと評価。同長官はさらに「モトGPは観光だけでなく、経済効果など州や地元に効果的な影響を与えてくれる」ともろ手を挙げた歓迎ぶりを表明している。

政府や州政府などのこうした歓迎ぶりの一方でマンダリカでのサーキット開発で用地買収に応じなかったためにサーキット敷地内に残された住民、さらに開発に伴う自然環境破壊など負の面については置き去りにされているという実情があることを忘れてはならないだろう。

バリ島へは現在ジャカルタなどでは禁止されている外国人観光客を条件付きで認めており、国際航空便の再開も伝えられている。こうした措置はモトGPと無関係といえるだろうか。インドネシア政府、地元ロンボク当局にしてみれば世界的なバイクレースに競技関係者や外国人観戦者が大挙して訪れることを期待していないということがあるだろうか。

コロナのオミクロン株による感染が拡大する中でのモトGPへの過剰と思えるまでの政府などの思い入れに、国民の理解は得られるのだろうか。大いに疑問である。

執筆:大塚 智彦
1957年生、毎日新聞ジャカルタ支局長、産経新聞シンガポール支局長などを経て2016年からフリーに。
月刊誌やネット版ニューズウィーク、JBPress、現代ビジネス、東洋経済オンライン、Japan in depth などにインドネシアや東南アジア情勢を執筆。ジャカルタ在住。
※本コラムは筆者の個人的見解を示すものであり、PT KiuPlat Media社の公式見解を反映しているものではありません。