インドンネシアの治安当局にとって「最も危険な男」とされる人物が7月20日、刑務所から仮釈放されて「娑婆」に戻って来た。
その男とはイスラム強硬派の「イスラム防衛戦線(FPI)」の創設者であり、カリスマ的人気を誇るイスラム教指導者ハビブ・リジック・シハブ氏である。
シハブ氏はコロナ感染防止法違反で2020年に禁固4年の実刑判決を受けて刑務所に収監されいたが、このほど18か月で仮釈放の身となった。
ご記憶の人も多いだろうが、FPIはシハブ氏の指導の下、ジャカルタ州知事だったバスキ・チャハヤ・プルナマ(愛称アホック)氏の発言を反イスラム的として大規模な反アホックのデモを組織して辞任、裁判で有罪に追い込み、アホック氏の政治生命を絶った。
FPIはイスラム教義に反するとして市内のクラブやバーなどアルコールを提供する場所を襲撃するなど活動は過激化し、治安当局にとって「危険な存在」となっていた。
こうした中シハブ氏はサウジアラビアに逃走、海外からFPIを指導していた。そして機が熟したとみて2020年にインドネシアに帰国したシハブ氏を大群衆がスカルノハッタ空港や事務所のあるタナアバンなどで歓迎し、支持と人気の高さを印象付けた。
しかし治安当局は虎視眈々とシハブ氏拘束の機会を狙っており、2020年12月にはシハブ氏の車列に対して尾行していた警察部隊がFPIメンバー6人を射殺する事件が起きた。当局は「正当防衛」と射殺を正当化するも、シハブ氏側は「全員非武装だった」と反論、対立が鮮明となった。
そしてシハブ氏を他に容疑がないことから、組織した集会でコロナ感染拡大対策を怠ったという容疑で2020年に逮捕したのだった。この間FPIは禁止団体に指定されるなど、当局の執拗なまでのFPI、シハブ氏への「徹底的弾圧」が浮き彫りとなった。
シハブ氏は仮釈放後ネットのオンラインで「よき神を求め、悪しき神悪魔と闘う。我々は闘うために結束し人々を見捨てないし裏切らない」と第一声を明らかにした。
ジャカルタ市外への移動は許可が必要で、日々の活動も当局への報告が必要と仮釈放の条件はあるが、今後シハブ氏が活動を再開して2024年の大統領選に向けてインドネシア政治、社会の不確定要素になるのは間違いないとみられており、治安当局は警戒を強めているし、ジョコ・ウィドド大統領は頭が痛い。
月刊誌やネット版ニューズウィーク、JBPress、現代ビジネス、東洋経済オンライン、Japan in depth などにインドネシアや東南アジア情勢を執筆。ジャカルタ在住。