インドネシア人をはじめとするイスラム教徒は断食月の最中である。一日の断食を夕方に終えた後は、甘いコラックやアクアを飲みその後空腹を満たすため家族や知人らと会食して食事に取り掛かるのが通常である。
しかし今年は、この日々の断食明けに行う「ブカ・プアサ」の会食をジョコ・ウィドド大統領から「控えるように」という指示が公務員に飛ぶ事態になり、反発と不満が高まっているという。
もっともこうした大統領の指示を厳格に守っているのは省庁や治安機関、地方政府・自治体などの公務員の一部で、職場や職場のモスク以外での会食はジャカルタ市内や地方のモスクや集会所などで公務員も参加して相変わらず「ブカ・プアサ」として「堂々」とあるいは「密かに」続けられているようだ。
断食月には夕方が近づくと路上に近隣の主婦が手作りしたコラックや砂糖をたっぷり使用した甘い菓子類、揚げ物などを売る屋台というかテーブルが並び、仕事帰りの人や近所の住民がこぞって購入し、自宅や集会場での会食に向かう光景が毎年繰り返されている。モスクでは寄付などで用意された飲食物が来訪者に提供される。
そうしたイスラム教徒のささやかな「年中行事」を公務員に対してだけ「控えるように」などと「隠忍自重」を求めるのは、門外漢からすると「無粋」であり「野暮」であるようにも思える。一般のイスラム教徒には「会食自重」を求めていないというが、では「なぜ公務員だけに」との疑問が沸いてくる
ジョコ・ウィドド大統領が会食禁止の理由として挙げているのが「コロナウイルスの流行はパンデミック(世界的流行)の状態からエンデミック(地域的流行)への移行期にいまだにあり用心深い対応が必要」というもの。官房長官を通じて閣僚、検察総長、国軍司令官、国家警察長官、各省庁長官に通告されたが、国民の多くが「コロナ感染拡大回避」との理屈に耳を疑ったことだろう。
すでにインドネシアはコロナ渦を脱し、日常生活を取り戻しつつある段階にあり、マスクを着用している人ももはや少数派になりつつある。それだけに今回の政府方針は「会食中の会話」を控えて「隣同士一定の距離」を取った上での実施ではいけなかったのだろうか。それとも公務員が会食で政治への不満や注文、総選挙・大統領選への話題が噴出することを回避したかったのだろうかと穿った見方もしたくなるものだ。