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大統領選挙立候補者の年齢 引き下げの動きは誰のため

2024年2月の正副大統領選挙に関連してまたまた不可思議な動きが出てきた。地元紙などの報道によると、大統領選立候補者の年齢制限を見直す案があり、これを憲法裁判所が審査しようとしているというのだ。

具体的には現行の40歳以上という規定を35歳以上に引き下げるというものだ。

これまで何度も行われたインドネシアの大統領選で全くといってもいいほど問題にされてこなかった年齢制限が今回にわかに俎上に上った背景には「政治的意図」がある、との見方で一致している。それは憲法の3選出馬禁止規定で次回大統領選に出馬できないジョコ・ウィドド大統領の長男、中部ジャワ州ソロ市長のギブラン・ラカブミン・ラカ氏に出馬の道を開こうとする動きである。

ギブラン氏は現在35歳、最大与党「闘争民主党(PDIP)」の党員で党首メガワティ・スカルノプトリ元大統領の覚えもめでたい有力政治家の一人である。

そしてなによりジョコ・ウィドド大統領がいずれは後継者として強く推している「期待の息子」なのだ。ソロ市長から首都ジャカルタ特別州知事を経て大統領に駆け上がったジョコ・ウィドド大統領は、自身の歩んできた道を歩ませたいとこれまで深謀遠慮を発揮してきた。

しかし大統領候補としてPDIが指名し、人気の高いガンジャル・プラノウォ中部ジャワ州知事とペアを組む副大統領候補として「最強タッグ」で大統領選に挑戦させたい、というPDI内部や複数政党の声の高まりを背景に「では立候補の年齢制限を引き下げよう」と憲法裁判所に請願が提出されたのだった。

今回の「年齢制限見直し」はこのようにギブラン市長の「出馬ありき」の側面が極めて強く、政治の私物化であるとか法律の恣意的運用への道を開くなどの反対論や批判が根強いことも事実。

賛否両論が渦巻くこの問題、PDIとは一線を画す姿勢が目立っていたジョコ・ウィドド大統領も所詮は子供に甘い「ただの人の親」だったのだろうか。そういえばスハルト長期独裁政権の悪弊とされ、そこからの脱却が歴代政権の課題でもあった「KKN」の「N」は親族重用、家族主義ではなかったのか。

ジョコ・ウィドド大統領そしてPDIといった「既存の大きな権力」の影響をどこまで排して、憲法裁判所が公平で中立な判断を示すのかが大きな焦点となっている。

執筆:大塚 智彦
1957年生、毎日新聞ジャカルタ支局長、産経新聞シンガポール支局長などを経て2016年からフリーに。
月刊誌やネット版ニューズウィーク、JBPress、現代ビジネス、東洋経済オンライン、Japan in depth などにインドネシアや東南アジア情勢を執筆。
※本コラムは筆者の個人的見解を示すものであり、PT KiuPlat Media社の公式見解を反映しているものではありません。