インドネシアの憲法裁判所は10月16日、大統領に立候補する場合の年齢制限の下限を、現行の40歳から35歳に変更するべきだとする政党関係者などの請願を多数決で否決、却下したことを明らかにした。これは2024年2月に実施される正副大統領選に立候補する候補者の年齢制限が現在の40歳以上との憲法上の規定を、35歳以上へと変更を求めた請願に対して示されたものだ。しかし、同日に「選挙で地方自治体の首長に選ばれたことのある人はその限りではない」との追加の判断も示された。
この請願はジョコ・ウィドド大統領の長男であるギブラン・ラカブミン・ラカ中部ジャワ州ソロ市長(36)を大統領候補者とペアを組む副大統領候補に擁立することを狙った極めて政治的なものだった。そのため識者などから疑問が示され、ジャカルタ中心部の憲法裁判所前では請願を却下するよう求める市民のデモも行われるなど、政治問題となっていた。
憲法裁判所は請願を反対6票、賛成2票の大差で否決し、請願却下を決めたという。インドネシアでは、憲法裁判所が司法の最後のとりでとして極めて妥当な判断を下したと評価する声が一時沸き起こっていた。しかし、追加の判断が出され一転してギブラン氏の大統領選出馬が可能となるや否や、懐疑的な声が噴出する事態となっている。そんな中で22日、大統領選に出馬予定のプラボウォ国防相がギブラン氏を副大統領候補にすると発表した。
ジョコ・ウィドド大統領は現在2期目で憲法の3選禁止規定により、次期大統領選に大統領候補としては出馬できない。しかし長男ギブラン氏を副大統領候補に据えることができれば、2024年の大統領退任後も政権にそれなりの影響力を残すことができるため、水面下ではジョコ・ウィドド大統領の意を汲んだ請願だったとの見方が強く、まさにそのもくろみ通りに事が進んでいる現状となっている。
ジョコ・ウィドド大統領自身は長男ギブラン氏の中央政界への転身について明言を避けている。しかし、大統領退任後は故郷の中部ジャワ州ソロに戻って晴耕雨読の生活を送りたいと度々言明しながらも、長男ギブラン氏に続いて次男も地方政治に参加するとともに少数政党の党首になるなど「ジョコ・ウィドド・ファミリー」の政治活動は活発になっていることから、自身も政界に影響力を残すことにまんざらでもないとの見方が有力となっているのだ。
月刊誌やネット版ニューズウィーク、JBPress、現代ビジネス、東洋経済オンライン、Japan in depth などにインドネシアや東南アジア情勢を執筆。