インドネシア最東端のパプア州の南東部には、マングローブ林が生い茂る平野が広がっている。雨季の満潮時には内陸約2kmまで海水が浸透し通行もできなくなるこの世界最大の沖積湿地は、パプア州全体の約7.44%を占めており、ウミヘビ、ワニ、淡水イルカや巨大なトカゲなどが生息している。先住民族アスマット族は、何世代にもわたってこの地で暮らしてきた。
アスマット族は世界中の美術コレクターが欲しがる世界有数の優れた木製彫刻を生み出してきた。木と人間を同じものと考えるアスマット族にとって木彫りは、精神世界と密接に結びついている神聖なものであり、芸術作品ではない。彼らは祖先の霊をなだめるために、盾、カヌー、彫刻像、太鼓などを多数生産してきた。その多くは戦争、首狩りの風習、戦士と先祖への崇拝を象徴したもので、ニューヨークのメトロポリタン美術館にも数点展示されている。
アスマット族の村に外部の人間が入れるようになったのは、1950年代から60年代に入ってからのことで、それまでアスマット族は文明に触れてこなかった。現在では、パプアの他の地域を結ぶ道路が延長され、交通、衛生的な水、医療などといったインフラの開発も進んだ。2018年4月ジョコ・ウィドド氏は、アスマット族を訪問した初の大統領として歓迎を受けた。