街を歩くと至る所にATMが並ぶジャカルタの街。インドネシアの金融機関の 動向や利用方法について理解しましょう。
目次
インドネシアの金融業界の現状
ASEAN共同体の発足が決まったものの、シンガポールやマレーシア、タイと比べて、インドネシアの金融業界は依然として立ち遅れ ていると言わざるを得ません。
まず、銀行に口座を持っていない国民は半数前後に達しているほか、銀行からの融資を受けられない中小・零細企業が多数存在しています。それに加え、1997年に起きたアジア通貨危機の後に着手した「銀行再編」が成果を上げておらず、その結果、非効率的で規模の小さい金融機関が依然としてたくさんあります。
銀行が資金を融資するためには、調達手段を確保しなければな りませんが、現状では国内にいる機関投資家の規模が小さいため、これが債券市場を整備できない大きな原因となっています。 さらに、金融システムの信頼性を確保するに足りる「法規制や枠組み」が十分に整備されていないことも大きな問題でしょう。
インドネシアは世界最大のイスラム教徒(ムスリム)を抱える国ですが、イスラム法(シャリア)に則った「イスラム金融」への本格的な取り組みが始まったのはアジア通貨危機の後と未熟です。
インドネシアの主な金融機関
インドネシアの主な金融機関 インドネシアの金融機関は大きく分けて、民間銀行と政府系銀行の2つに分けられます。預金や利子の条件などは両者で大きく変わりません。
インドネシアの主な民間銀行
国内最大級、個人や中小企業取引に注力
インドネシアの主な政府系銀行
10兆円規模の総資産額を持つ国内最大級の銀行
日系リテール銀行
インドネシアにある既存の日系メガバンクは、主に進出した日系企業の現地拠点などの法人向けの金融サービスを行っています。そんな中、インドネシアには日系資本のリテール銀行であるJトラスト銀行が誕生しました。
「地場銀行の買収によって生まれた金融機関」という背景があり、いわゆる地場銀行と同じ機能を持っていることから、外国人(インドネシアの居住者であることが条件)の個人でも口座を開設することでキャッシュカードも同時に手にすることが出来ます。
つまり、日本にいる時と同様、普段使いのお金を口座に入れたり、カードで買い物ができたりするわけです。
イスラム金融について
イスラム金融概要
イスラム金融とは、コーランの教え「シャリア法」に基づいて行われる金融取引のことです。シャリア法は「お金の貸し借りで 利子を科したり得たりすることを禁止」しているほか、イスラムの 教義に反する豚肉関連の畜産業をはじめ、アルコールや賭博、 ポルノ、武器売買などに関する事業への投資を行わないのが特徴です。「利子の受け渡しがない金融」ともいえます。
では、イスラム金融を扱う銀行はどこで利益を出しているのか。それは、「物品の売買価格の差額」 「リース料」「配当金」を組み合わせ、利子の代わりとして扱って そこから利益を上げていることがわかります。また、シャリア法で は「有形資産での取引」を是とする一方、ヘッジファンドや先物 取引のような金融システムは認められていません。
イスラム銀行でのサービスは、預金、投資ファンド、債券、保険 など多岐に渡っています。なお、自動車や住宅を買うための「借り入れ(ローン)」に変わる手段として、インドネシアでは『ムラーバハ』という売買契約が存在します。
ある財(自動車、住宅、家電など)を、購入した際の原価よりも高い代金によって転売する。イスラム銀行ではこのシャリアの制度を利用し、設備・備品を希望する顧客に代わって購入し、顧客に渡す。購入者は原価と代金の差額を了解し、差額を転売者(金融機関)の売却益として納得した上で契約が結ばれることが前提となっている。
金融機関は「手数料」を上乗せして分割払いあるいは後払いとする。こうすることによって、銀行は 「利子」ではなく「売却益」として顧客から利益を受けている。
国際金融システムにおけるイスラム金融
イスラム金融は当初、国際金融システムの中で特異な存在と見られていましたが、現在では国際通貨 基金(IMF)が認める金融システムのひとつとなっている。
2007〜08年の金融 危機(リーマンショックなど)が起きた当初は、「国際的な金融 市場から距離を置くイスラム銀行には悪影響は少ない」という見方もありましたが、影響は予想以上に大きく、実際にはイスラム金融の市場も国際的な金融市場との距離 が意外と近いという考え方が一般的となっています。
インドネシア政府は2015年3月、ASEAN内でのイスラム金融の拠点を目指し、国営銀4行の 傘下にあるイスラム金融部門を 統合する方針を明らかにした。
統合が予定されているのは、マンディリ銀行傘下のシャリア・マンディリ銀行、BRI傘下のバンクBRIシャリア、BNI傘下のBN Iシャリア、バンク・ラクヤット・ インドネシア(BRI)。
なお、インドネシアにおいてはイスラム金融のシェアは数%(預金残高ベース)にとどまっており、当地で企業活動を行うに当たっては「イスラム銀行の存在は意識しないで良い(日系金融機関関係者)」と考えておきましょう。
金融システムを取り巻く問題点
インドネシアには数多くの金融機関がありますが、少なからず 金融システム上に問題点があるようにみられます。まず、国の規模と比べてリテール銀行部門の規模が小さいことが挙げられます。国内の資金需要に応えきれないため、資金を調達したい企業経営者たちは銀行からの借り入れではなく、親子 ローンや内部留保など内部資金を当て込んだり、海外の資金に依存しがちです。また、多くの金融機関は預金残高から見て「小規模」で、上位の銀行以外は国際競争力が低いのが現状です。
加えて銀行の数(支店数ではなく、法人数)が多いため、当局の規制監督が行き届いていない懸念があり、小規模行ではリスク管理やコーポレートガバナンスになんらかの問題が起きている可能性も否めません。 識者の間では、銀行部門の効率性の低さも指摘されています。
現状では貸出金利と預金金利のスプレッドが大きく、その結果、 企業の資金調達コストが高止まりしています。