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NIIメンバー16人逮捕 政府転覆の疑いで武器収集

またぞろ過去の悪夢を連想させる事件が起きた。3月に南スマトラ州でイスラム団体である「インドネシア・イスラム国(NII)」のメンバーとされる16人が国家警察対テロ特殊部隊「デンスス88」に逮捕され、その際に押収した内部文書からNIIが2024年の大統領選前に武装蜂起して政権を転覆する計画を立てていたことが明らかになった、と複数のメディアが伝えたのだった。

NIIは一説ではイスラム教過激集団だった「ダルル・イスラム」の武装部門ともいわれていた。

「ダルル・イスラム」は1949年に西ジャワ州タシクマラヤで設立された組織で、創設者のカルトスウィルヨ容疑者は政治と宗教の権威を持つイスラム教指導者である「カリフ」による国家統治とイスラム教国家建設を掲げて活動。最終的には友人だったというスカルノ初代大統領の政権転覆とスカルノ大統領の暗殺を企てるまでに先鋭化。1950年から1962年まで「ダルル・イスラム」はアチェ州、中部ジャワ州、南カリマンタン州、南スラウェシ州などで反乱を起こしたが、いずれも鎮圧されている。

このためカルトスウィルヨ容疑者は治安当局に逮捕され、1962年に処刑されている。以後「ダルル・イスラム」は弱体化されたもののNIIは一般庶民のイスラム教徒の間では根強く生き残っていたことが改めて今回の摘発で明らかになった。カルトスウィルヨ容疑者の息子であるサルジョノ氏はインドネシア政府への恭順の意を示し、NIIを含めもはや敵対勢力ではないことを公にしている。

インドネシア治安当局がなぜこの時期にNIIメンバーの逮捕、さらに内部文書の現政権を2024年の大統領選前に武装蜂起するという内容を公にしたのか。大統領任期延長を求める勢力に反対する学生デモななどが起きていることや5月2、3日(不確定)まで約1カ月続くイスラム教徒にとって重要行事である断食の期間中であることなどによる引き締めが考えられるが、他に重要なテロ情報があったのも知れない。

逮捕されたNIIメンバーは上部からの支持で武器調達をしていたという。また各地で15歳未満の若いイスラム教徒をリクルートしていたという。NIIの元幹部は「政府転覆などの力はない、内部文書は警察のでっち上げだ」と話す。とはいえ、警察はNIIのコアメンバーは全国で1000人以上、活発な活動家はこのうち約400人とみている。

執筆:大塚 智彦
1957年生、毎日新聞ジャカルタ支局長、産経新聞シンガポール支局長などを経て2016年からフリーに。
月刊誌やネット版ニューズウィーク、JBPress、現代ビジネス、東洋経済オンライン、Japan in depth などにインドネシアや東南アジア情勢を執筆。ジャカルタ在住。
※本コラムは筆者の個人的見解を示すものであり、PT KiuPlat Media社の公式見解を反映しているものではありません。