イード・アル=アドハー(犠牲祭)は、ヒジュラ歴(イスラム暦)のズー・アルヒッジャ(巡礼月)の10日から4日間行われるイスラムの二大祝祭のひとつ。その文化は、預言者イブラヒムの物語に由来する。預言者イブラヒムは息子のイシュマエルを犠牲にするようアッラー(神)から啓示を受けた。苦悩に苛まれながらも啓示に従って息子を犠牲にしようとしたイブラヒム、そしてためらうことなく父親にその身を委ねたイシュマエルの信仰の深さを知ると、アッラーは二人の忠誠心を褒め、イシュマエルの代わりに羊を差し出させたと伝えられている。
クルバン(動物の犠牲)はイード・アル=アドハーの祭典に欠かせない。クルバンとして神に捧げられるヤギ、牛、羊などは、必ずイード・アル=アドハーの祈りが行われた後に絞められる。クルバンを捧げる目的は、アッラーへの感謝の気持ちと求められるものは何でも犠牲にすることを厭わない強い忠誠心を示すこと。また捧げられた肉は後に地域の人々に配布されることから、クルバンの儀礼を通じ、他者に対する思いやりの意識、命の大切さの実感も育まれる。水牛料理を皆で分け合って食べるアチェの「ムガン」、農産物の神輿を担いて巡行するスマランやジョグジャカルタの「グレベッグ・グヌンガン」など、各地域独自の伝統行事も開催される。