2000年代半ばから5~6%の経済成長率(*1)が著しいインドネシア。この目覚ましい存在感を発端に、2010年代半ばに相次いだ外資進出ラッシュは記憶に新しい。進出ラッシュから約10年が経とうとしている2024年…。多くの企業が「創業期」から「成長期(もしくは拡大期)」に差し掛かる時期だろう。この進化をモノにできる1つの方法が「労務管理」なのだ。
労務管理とは、従業員に関わる職場環境・業務内容の管理を行う事と云われている。多くの日系企業は人事管理も含めて担っている事が多いので、今回はひとまとめにして「労務5箇条」としてお伝えしたいと思う。
目次
1箇条:インドネシア人の仕事観を知っておこう
時間管理が不得意
Jam Karet(ゴムのように延びる時間の意)という言葉がインドネシアには存在する。この言葉の背景には、作業内容と時間を考えて時間を細かく采配するのが苦手な人が多いからだろう。コロナ禍以降、テレワークをせざる得ない環境となり、この環境を好機とするか苦境とするかで生産性が左右された。とある ECプラットフォームを手がける企業Aでは、毎日の勤怠管理はせずに、月ごとの目標(KPI)を設定・実施した事で驚く程に成果が上がったという。
マルチタスクが不得手
成果を上げた上記企業Aは、部署ごとの役割を明確化し、出社が必要な頻度を設定。出社の場合はコアタイムを設け、テレワークでは勤怠管理をしない事にした。会社は月一で成果を確認し、従業員は月一で成果を報告する。報告と確認項目を最低限に絞る事で、マルチタスクを回避し成果達成に1点集中を可能にさせた。同社は現在成長期へと進化している。
2箇条:管理者が陥りがちな思考を知っておこう
目標値と目標を達成するための能力・方法が相互(リンク)しない
コロナ禍以降、ローカライゼーション(インドネシア人の管理者化)が顕著になっている。これによって露呈してきた課題が、「部下の育て方」だ。例えば製造業では、目標値だけを掲げ、達成するための方法論を想定出来ない場合が散見される。この場合、管理者は目標数字だけを追いかけ、部下のスキル向上などに対して認識が低い。人を育てるのは人事が勝手にしてくれると思っている傾向があるのだ。
社風は遺伝する
自ずと社風は遺伝する。老舗企業ほど、強固な社風が土台にある。どんな人でも社風をなぞって習慣通りに仕事をするのが人間の性(さが)。社風は時代に合わせて適応していかねばならない。「変化に対応できたものが生き残る」という言葉が浮かぶ。社風の良い部分を伸ばせる人、社風の悪い部分を断ち切れる人。どんな社風へ変化させたいか、人を配する前に考えたい。
3箇条:人の採用は進化変革の絶好機会だと知っておこう
会社がどんな仕事を求めるのか解像度高く、明確にする
どんな人にどんな成果を求めるか。総務や経理など数字で測らない部署だとしても、成果を測れる評価軸を設定する。業務内容や評価基準を曖昧にしない事が、良き組織に進化させる一助になる。
履歴書から推測できる人柄
多民族国家のインドネシアでは、民族別に見られる気質が興味深い。例えば、数字に強い中華系、親分肌のブタウィ系、上昇志向が強いパダン系、間をとりなすジャワ系、周りに流されないバタック系など。ほかには、コンセプチュアル(創造力)な仕事は比較的視野が広い大卒が適していたり、名門大学(UIやITB等)出身者は幅広い人脈を持っていたりする可能性が高い。また、学歴は育ちと地頭の良さが垣間見られる情報になる。高額な学費が出せる家柄、厳しい受験を乗り越えた努力と地頭の良さ、上京して名門に通える程の教育熱心な家庭の育ちなど。もちろん個人差はあるが、職歴以外も考慮しながら人材配置を考えられるのが多民族と教育格差が混在するインドネシア人材の面白さかもしれない。
4箇条:雇用に関するルールを知っておこう
無条件に解雇・退職できる試用期間は3ヶ月間
期間を定めない雇用契約(正社員)は、試用期間(最長3ヶ月)を設けられる。この3ヶ月間は双方から無条件に解雇・退職できる期間。3ヶ月以上を設けたい場合は、退職金は発生するが、雇用契約書に雇用契約解消理由事項を記載・同意しておけば、雇用関係を終了しやすくなる”可能性”がある。
昇進、降格、解雇、退職について
昇進させるのは容易だが、降格する場合は降格を当然とする公の指標が必要。オムニバス法(*2)によって、退職金の上限が(給与32ヶ月分から19ヶ月分に)下げられ、解雇条件が緩和された。施行前は解雇するには労働省の許可が必要だったが、現在は合意があれば解雇可能に。
5箇条:給与相場を知っておこう
最低賃金と管理職給与の相場とは
最低賃金情報(*3)は毎年政府から発表される通り。2024年の上昇率(*4)は約4%程度となった。管理職(部下5名程度)の給与相場は、製造業自動車(ブカシ)約1,500万〜2,500万ルピア、商社(ジャカルタ)約2,000万〜3,000万ルピア。年々上がる相場に合わせて、高い能力を求める事が重要。
給与スケールに必要な細かな設定
変化する相場や組織編成に合わせて見直せている会社は少なく、肩書きだけで大枠な給与スケールを設定している場合が多い。この場合、給与と業務バランスが杜撰になっていく傾向にある。昇給・減給共に正当な対価で給与を支払うには、各従業員が担う業務とKPIに対して、細かな給与スケールを設ける事が望ましい。
終わりに…
宗教や生活習慣・文化が異なる国で、組織を管理するのは困難に思うかもしれない。しかし時流に合わせて、組織を進化・発展させていくための根底はどの国でも同じだろう。異なる国民性や文化慣習背景でも、達成する頂(ゴール)は変わらない。ゴールまでの道筋をどのように創るかが、労務管理に求められる。
激動のインドネシア市場で、企業を「成長期」へと押し上げるためには、「労務管理」の在り方が大切なのだ。
参考*1:https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/indonesia/data.html
参考*2:https://en.wikipedia.org/wiki/Omnibus_Law_on_Job_Creation
参考*3:https://news.lifenesia.com/?p=31692
参考*4:https://www.jetro.go.jp/biznews/2023/12/53065e9274a0a903.html
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